須藤依子(筒井真理子)は、今朝も庭の手入れを欠かさない。“緑命会”という新興宗教を信仰し、日々祈りと勉強会に勤しみながら、ひとり穏やかに暮らしていた。ある日、長いこと失踪したままだった夫、修(光石研)が突然帰ってくるまでは—。 自分の父の介護を押し付けたまま失踪し、その上がん治療に必要な高額の費用を助けて欲しいとすがってくる夫。障害のある彼女を結婚相手として連れて帰省してきた息子・拓哉(磯村勇斗)。パート先では癇癪持ちの客に大声で怒鳴られる・・・。 自分ではどうにも出来ない辛苦が降りかかる。依子は湧き起こる黒い感情を、宗教にすがり、必死に理性で押さえつけようとする。全てを押し殺した依子の感情が爆発する時、映画は絶望からエンタテインメントへと昇華する。
イントロダクション
INTRODUCTION
荻上直子監督のオリジナル最新作にして、監督自身が歴代最高の脚本と自負する絶望エンタテインメントの誕生だ。監督は、須藤家を通して、現代社会の闇や不安と女性の苦悩を淡々と、ソリッドに描き出す。放射能、介護、新興宗教、障害者差別といった、誰もがどこかで見聞きしたことのある現代社会の問題に次々と翻弄される須藤家は、正に社会の縮図だ。しかし、これを単なる絶望で終わらせないのが荻上監督の新境地とも言える。そんな斬新な内容に鑑賞者を引き込むリアリティを与えているのは、筒井真理子、光石研、磯村勇斗、木野花、キムラ緑子、柄本明、江口のりこ、平岩紙ら、名前を挙げるだけで興奮を覚える役者たち。
依子から広がる波紋は、きっと全ての女性、いや現代社会に生きる全ての人に届くことだろう。依子は、あなただ。
キャスト
CAST
- 筒井真理子
- 1960年10月13日、山梨県出身。
早稲田大学在学中に劇団「第三舞台」で初舞台。第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』('16/深田晃司監督)の演技力が評価され、複数の映画祭で主演女優賞に輝いた。主演作品『よこがお』('19/深田晃司監督)で芸術選奨映画部門文部科学大臣賞受賞。全国映連賞女優賞受賞。Asian Film FestivalのBest Actress最優秀賞受賞。主な出演作に『クワイエットルームにようこそ』(’07/松尾スズキ監督)、『アキレスと亀』(’08/北野武監督)、『jam』(’18/SABU監督)、『愛がなんだ』(’19/今泉力哉監督)、『ひとよ』(’19/白石和彌監督)、『影裏』(’20/大友啓史監督)、『天外者』(’20/田中光敏監督)、『夜明けまでバス停で』(’22/高橋伴明監督)など。近年の舞台に『そして僕は途方に暮れる』(’18/作・演出:三浦大輔)、『空ばかり見ていた』(’19/作・演出:岩松 了)、COCOON PRODUCTION 2021+大人計画「パ・ラパパンパン」(’21/作:藤本有紀・演出:松尾スズキ)など。
>ドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-1」(‘22/フジテレビ)に続き「ヒヤマケンタロウの妊娠」(’22’23/Netfix・テレビ東京)、「大病院占拠」(‘23/日本テレビ)にレギュラー出演。現在「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(’23/Amazon Originalドラマ)に出演中。今後も多数公開作品が控えている。
- 光石研
- 1961年9月26日、福岡県出身。
高等学校在学中、映画『博多っ子純情』('78/曽根中生監督)で主演に抜擢されデビュー。イギリス・フランス・オランダで合作製作された、『ピーター・グリーナウェイの枕草子』('96/ピーター・グリーナウェイ監督)の出演から、『EUREKA ユリイカ』('01/青山真治監督)、『それでもボクはやってない』('07/周防正行監督)、第49回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した『シン・レッド・ライン』('98/テレンス・マリック監督)など200本以上の映画に出演。映画だけでなく、ドラマや舞台と活躍し、冷徹なヤクザ役からよき父親役まで、幅広い人物像を演じることのできる名バイプレーヤー。
2023年には、12年ぶりの映画単独主演作『逃げきれた夢』(6月9日公開予定/二ノ宮隆太郎監督)が公開を控える。
- 磯村勇斗
- 1992年9月11日、静岡県出身。
中学生の頃に映画を自主制作したことがきっかけで役者に興味を持ち、高校時代は地元・静岡の劇団に所属し舞台に立つ。2015年ドラマ「仮面ライダーゴースト」('15'16/テレビ朝日)で仮面ライダーネクロム・アラン役を演じ注目を集め、その後、連続テレビ小説『ひよっこ』('17/NHK)でヒロインの夫となる見習いコック役を演じ脚光を浴びる。映画作品では『ヤクザと家族The Family』('21/藤井道人監督)、『劇場版 きのう何食べた?』('21/中江和仁監督)で第45回日本アカデミー新人俳優賞を受賞。近年では『前科者』('22/岸善幸監督)『PLAN 75』('22/早川千絵監督)『ビリーバーズ』('22/城定秀夫監督)『異動辞令は音楽隊!』('22/内田英治監督)などに出演。
Netflix「今際の国のアリスシーズン2」('22'23/佐藤信介監督)が配信中のほか、公開待機作に映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編-運命-』(4/21公開予定/英勉監督)、『最後まで行く』(5/19公開予定/藤井道人監督)、『渇水』(6月2日公開予定/高橋正弥監督)がある。
- 津田絵理奈
- 1987年2月24日、大阪府出身。
先天性の難聴障害を持ち、小学校から高等学校までを聾学校で過ごす。
15歳で現所属エージェンシーに自ら応募。高校を卒業と同時に、障害を持つ人たちの希望になりたいと女優を目指し、親の反対を押し切って単身上京した。
2004年に週刊朝日の表紙でデビュー。その後映画・ドラマ・舞台で活躍する傍ら、NHK「みんなの手話」のレギュラーを務める。2008年にはNHKで特集番組「ろうを生きる難聴を生きる〜初舞台に賭ける!津田絵理奈」が放送されて話題になる。2016年には主演した短編映画『君のとなりで』(望月亜実監督)の演技が評価 され、第18回長岡インディーズムービーコンペティション女優賞を受賞した。
- 安藤玉恵
- 1976年、東京都出身。
早稲田大学在学中に演劇を始め、数々の舞台に出演し、映画『ヴァイブレータ』('03/廣木隆一監督)でスクリーンデビュー。『夢売るふたり』('12/西川美和監督)では第27回高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。主な出演映像作品に、『恋人たち』('15/橋口亮輔監督)、映画&ドラマ『深夜食堂』(映画は'15'16/松岡錠司監督)シリーズ、連続テレビ小説「あまちゃん」('13/NHK)、「阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし」('21/NHK)、「拾われた男」('22/ディズニープラス&NHK)等。
最近の出演に連続テレビ小説「らんまん」が、2023年4月よりNHKにて放映開始(江口りん役)。
- 江口のりこ
- 1980年4月28日、兵庫県出身。
中学校を卒業後しばらくして、劇団「東京乾電池」のオーディションを受けるために上京し、研究生を経て2000年に入団。同劇団の公演に参加しながら映画『金融破滅ニッポン 桃源郷の人々』('02/三池崇史監督)にてスクリーンデビューする。
事故物件住みます芸人・松原タニシの実体験を記したノンフィクションを映画化した『事故物件 恐い間取り』('20/中田秀夫監督)では、第44回日本アカデミー優秀助演女優賞を受賞。
「SUPER RICH」('21/CX)、「ソロ活女子のススメ」('21/TX)では主演を務め、多くの人気ドラマ、CMに出演し、そのユニークなキャラクターで注目を集めている。
- 平岩紙
- 1979年11月3日、大阪府出身。
2000年より大人計画に参加。同年、ミュージカル「キレイ-神様と待ち合わせした女-」(作・演出/松尾スズキ)で初舞台を踏む。その後、舞台のみならず、TV、映画にも多数出演し、活躍の場を広げる。
近年の主な出演作に、ドラマ「100万回言えばよかった」(’23/TBS)、「監察医 朝顔」シリーズ('20~'22/CX)、「雨に消えた向日葵」('22/WOWOW)、「僕の姉ちゃん」('21/Amazon Prime Video)、映画『ツユクサ』(‘22/平山秀幸監督)など。 出演舞舞台ウーマンリブvol.15「もうがまんできない」(作・演出/宮藤官九郎)が、4月14日より本多劇場にて上演。
- ムロツヨシ
- 1976年1月23日生まれ、神奈川県出身。
大学在学中に役者を志し、1999年に作・演出を行ったひとり舞台で活動をスタートする。映画『サマータイムマシン・ブルース』(05・本広克行監督)への出演をきっかけに映像作品に出演するようになる。
最近の出演作品には、『50回目のファーストキス』(18・福田雄一監督)、『ダンスウィズミー』(19・矢口史靖監督)、『最高の人生の見つけ方』(19・犬童一心監督)、『今日から俺は!!劇場版』(20・福田雄一監督)、『マイ・ダディ』(21・金井純一監督)、『神は見返りを求める』(22・𠮷田恵輔監督)、『川っぺりムコリッタ』(22・荻上直子監督)などがある。NHK大河ドラマ「どうする家康」(23)にも出演中。
- 柄本明
- 1948年11月3日、東京都出身。
工業高等学校を卒業後は商社に就職をするも役者に憧れ、金子信雄主宰・劇団「マールイ」に入団。2年後輩に松田優作がいた。
1976年に劇団・東京乾電池を結成し座長を勤めている。同じ東京乾電池に所属するベンガル、綾田俊樹とは、子供番組「ひらけ!ポンキッキ」('73-'93/フジテレビ)にて1976年から1978年までの間、お兄さんを務めたことがある。
映画『カンゾー先生』('98/今井昌平監督)で第22回日本アカデミー最優秀主演男優賞を受賞。2019年には旭日小綬章を受勲。映画のみならず舞台やテレビドラマにも多数出演している。
近年の作品に、『ある男』('22/石川慶監督)、『シャイロックの子供たち』('23/本木克英監督)、『ロストケア』('23/前田哲監督)、『最後まで行く』('23/藤井道人監督)などがある。
- 木野花
- 1948年1月8日、青森県出身。
弘前大学教育学部美術学科を卒業後、中学校の美術教師となるが1年で退職し、演劇の世界を目指して上京する。
1974年に東京演劇アンサンブル養成所時代の仲間と女性だけの劇団「青い鳥」を結成すると翌年には旗揚げ公演を行い、80年代小劇場ブームの先駆者的存在となる。退団後から現在まで女優、演出家として活躍中。2019年、映画『愛しのアイリーン』('18/𠮷田恵輔監督)で第92回キネマ旬報助演女優賞を受賞。2023年、舞台「阿修羅のごとく」で第30回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞する。
- キムラ緑子
- 1961年10月15日、兵庫県淡路島出身。
マキノノゾミ主宰 劇団M.O.P.を経て、舞台、映画、ドラマと幅広く活躍。2013年、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」でヒロインをいじめる小姑役で人気を博した。近年の作品に、ドラマ「あなたのブツが、ここに」('22/NHK夜ドラ)、ナレーション「グレーテルのかまど」('11~/Eテレ)、映画『すばらしき世界』('21/西川美和監督)、『劇場版ラジエーションハウス』('22/鈴木雅之監督)、舞台「歌わせたい男たち」('22/作・演出:永井愛)など。
2023年6月23日より映画『大名倒産』(前田哲監督)が公開、同年6~7月より舞台「パラサイト」(台本・演出:鄭義信)が上映を控える
コメント
COMMENT
筒井真理子
最近は〝壊れてゆく女性〟の役が続いていたので、荻上監督の作風から想像するとご一緒させて頂ける機会はない かと思っていました。ですのでとても嬉しかったです。
脚本を読んだ時、監督が醸し出す穏やかな空気の中に潜む 日常の些細な棘、ビターな社会風刺が溶け合っていて目を見張りました。演出も人間の細部を見抜く力が的確で、 身をゆだねることができ安心でした。 いまは先の見えない不穏なものに覆われているような時代ですが、是非この映画を観て絶望に絡めとられず前を進む気持ちになっていただけたらと思います。
光石研
久しぶりに荻上組へ参加させて頂き、凄く嬉しかったです。 監督は以前と変わらず、穏やかに粘り強く、俳優に寄り添い演出をしてくださり、安心して身を委ねる事が出来ました。 脚本に関してはただ一言、「女性は怖し」。
60年間、女性は聖母マリアだと信じて生きてきましたが、音を立てて崩れて落ちました。
磯村勇斗
はじめに脚本を読んだ時、ひしひしと波紋のように迫り来る心理的恐怖を感じました。 特に、筒井真理子さん演じる母、須藤依子を中心に、家族や取り巻く人物達のやり取りは、怖いのだが、思わず笑ってしまうところが多く、荻上監督の描く世界は面白いなと、一気に引き込まれました。 そして今作では、手話が必要な役でした。新たな言語に触れる機会を頂き、現場でも一つ一つ丁寧に確認しながら作り上げていきました。 早くこの作品が皆様のところに届くのが楽しみです。
荻上直子監督
その日は、雨が降っていた。駅に向かう途中にある、とある新興宗教施設の前を通りかかったとき、ふと目にした光景。 施設の前の傘立てには、数千本の傘が詰まっていた。傘の数と同じだけの人々が、この新興宗教を拠り所にしている。何かを信じていないと生きていくのが不安な人々がこんなにもいるという現実に、私は立ちすくんだ。 施設から出てきた小綺麗な格好の女性たちが気になった。この時の光景が、物語を創作するきっかけになる。
日本におけるジェンダーギャップ指数(146ヵ国中116位)が示しているように、我が国では男性中心の社会がいまだに続いている。 多くの家庭では依然として夫は外に働きに出て、妻は家庭を守るという家父長制の伝統を引き継いでいる。 主人公は義父の介護をしているが、彼女にとっては心から出たものではなく、世間体を気にしての義務であったと思う。日本では今なお女は良き妻、良き母でいればいい、という同調圧力は根強く顕在し、女たちを縛っている。 果たして、女たちはこのまま黙っていればいいのだろうか?
突然訪れた夫の失踪。主人公は自分で問題を解決するのではなく、現実逃避の道を選ぶ。新興宗教へ救いを求め、のめり込む彼女の姿は、日本女性の生きづらさを象徴する。 くしくも、本映画の製作中に起きた安部元首相暗殺事件によりクローズアップされた「統一教会」の問題だが、教会にはまり大金を貢いでしまった犯人の母と主人公の姿は悲しく重なる。
荒れ果てた心を鎮めるために、枯山水の庭園を整える毎日を送っていた彼女だが、ついにはそんな自分を嘲笑し、大切な庭を崩していく。 自分が思い描く人生からかけ離れていく中、さまざまな体験を通して周りの人々と関わり、そして夫の死によって、抑圧してきた自分自身から解放される。 リセットされた彼女の人生は、自由へと目覚めていく。
私は、この国で女であるということが、息苦しくてたまらない。それでも、そんな現状をなんとかしようともが き、映画を作る。たくさんのブラックユーモアを込めて。